2016-Aug-15 福島県福島市


 今日と明日の2日間は、福島県福島市にて、インディペンデント・キュレーターの窪田研二氏と美術作家、秋田公立美術大学准教授の高嶺格氏を講師に迎え、中間ワークショップを行います。前半の合宿ワークショップ後、1週間のフィールドワーク、リサーチ期間を経て、現時点で考えているプランを発表し、講評をし合う場でもあります。

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 岩崎孝正さんが発表したのは、『かつて  があった場所で(仮)』と題した映像作品。原発事故を公害と捉え、四大公害である新潟水俣病(新潟県)、イタイイタイ病(富山県神通川)、四日市ぜんそく(三重県四日市市)、それぞれの場所を訪れて撮影を重ねました。最終的には5面スクリーンでの映像インスタレーション展示を検討しています。「公害をジャーナリスティックに追求、告発したいわけではない。地域住民と企業によって、公害を元に戻していった過程、地域が風評被害、汚染からどうやって立ち直ってきたのかに注目したい」と説明しました。

 西岡航さんは、8月11日から14日までの4日間に仙台、石巻、女川で撮影してきた写真をまとめた動画をプロジェクションしました。テーマは「動く定点観測」。偶然性の打率を上げるフレーミングとして、100歩ごとに撮影するというルールに決めて、そこから見えるものを撮影しました。

 「まだなにもできていない。そもそも使うメディアが決まっていない。ご了承ください」と述べた水沼大地さんは「震災を忘れてはいけない」という言葉への違和感が自身の問題意識の出発点だと説明。そのうえで、震災が自分の一部になっていると思い、「忘れても大丈夫」だと考えるようになったといいます。また、この1週間のあいだ、自分に向きあい、参考になるモデルを探し、『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)に出てくるひみつ道具・アンキパンを思い浮かべたそうです。「震災を自分の中に取り込むことが、食べるという行動につながったんです」(水沼)。

 礒﨑未菜さんは、7歳のときに亡くした祖父を弔う行為が、自分にとって重要なものだったといいます。それを抽象化し、他人に受け渡すために発想された装置はプロジェクタから映像を流し、その熱で飴が溶けるというもの。装置の模型を提示しながら説明を続けました。それに加え、労働歌が気になっていること、それを受けて装置で流す映像は八戸から大船渡まで南下し、その過程で子どもの友達をつくり、その子と一緒に土地を歩き、飴を探す過程を作品にしたものにしたいと述べました。

 陸前高田、気仙沼、南三陸、仙台、須賀川、福島とリサーチを重ねた尾花藍子さん。その中で一番衝撃だったのは、陸前高田から南三陸に移動したときに感じた、「未来と過去が同時にあること」でした。そこで感じたことを、後世の人に伝えるメディアはどのようなものがあるか、アウトプットの形態を限定しないで考え続け、「本をつくる」というアイデアが浮かんだといいます。

 野口竜平さんは、タイヤを引っ張り、それがどのように見えていたのかを後日調査する行為で構成された『タイヤプロジェクト』を陸前高田市広田町で実践しました。広田町にたどり着いたのは、偶然によるもの。自身の持つテーマは「よそもの」であり、身分を持たない状態で関わることに興味があるといいます。
 
 「不自然さはコミュニティの方言になるか?」をテーマに掲げた河野輝美さんは、ドゥルーズ=ガタリやミシェル・ド・セルトーらの言葉を引きながら、不自然さがあるからこそ想像が喚起されるのではと問います。それらの考えを辿っていくことで、家庭の中で猫のための儀式について思案しました。

 中村大地さんは、「演劇は記録、記憶の役に立たない。同時代の共有体験にしか向かっていない」といいます。そのうえで、記憶を共有する場をつくること、補助線(=サブテキスト)が消えていく過程が含まれた長い期間の上演といったフレームやシステムをつくることを考えました。

 ヒップホップについてリサーチしたい、というのは佐藤駿さん。その理由について、ラップで地元をレペゼン(代表)する感覚が不思議だったからといいます。今後は仙台市内で行われるサイファーに足を運んでみること、東北出身のラッパーによるリリックの内容を調べていくそうです。

 井上亜美さんは、丸森町筆甫に暮らす祖父と共に害獣駆除へ出かけた際の映像を上映。「食べることの緊張感」(赤坂憲雄)という言葉を聞いて、震災以降の食べる行為に考えを及ばせようと思い、今週末の狩りに出かけるそうです。また映像作品においては、自分なりの文法を見つけて作品化したいといいます。

 佐竹真紀子さんは、プランの決断を決めかねていると逡巡しながらも、自分が偽物のバス停をつくることは、震災前の風景のリマインダとして機能するのかという問題意識によるものだと説明。災害危険区域である仙台市若林区荒浜の人から話を聞き、それを表現に結びつけていくことを長いスパンをかけて行っていきたい、と慎重に言葉を紡ぎます。

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 全員の発表後、講師の窪田氏によって、震災以降のプロジェクト『Japan Art Donation』『創造的復興プロジェクト』『Don’t Follow The Wind.』がどのように行われてきたのか紹介されました。

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 また、高嶺氏は『ジャパン・シンドローム』シリーズや『高嶺格のクールジャパン』展、プロデュース展『明日の拷問』などの震災後の活動を取り上げ、「日本社会」というフレームで活動することに自分のリアリティがあると述べます。さらに、現在の政治とアートの置かれている状況について、窪田氏も交えての対話が行われました。

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