2016-Aug-27 宮城県塩竈市


 ついに迎えたみちのくアート巡礼キャンプ2016、最終プレゼンテーション/講評の当日。会場は、合宿ワークショップのスタート地点である塩竈市杉村惇美術館です。講師は赤坂憲雄氏、窪田研二氏、高嶺格氏、畠山直哉氏、相馬千秋の5名。プレゼンと講評、あわせてひとり30分の持ち時間の中、この一カ月間考え抜き、見つめた問題意識を昇華した、各々の企画のお披露目となります。

 トップバッターは水沼大地さん。福島県岩瀬郡天栄村出身であり、内陸で震災を経験したことが「言葉にしにくい被災だった」と説明。そのうえで、震災後に聞かれた「東北を忘れない」という言葉への違和感を出発に、「忘れてもいいのでは」という思いを経て、「忘れても大丈夫」という言葉が自分にあっているといいます。そこに加え、藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』の中に出てくるひみつ道具・アンキパンを接続させ、発想された作品「記憶宅急便」は、忘れられない悲しいことを書いてもらい、それをパンに焼き付け食べる、数年後にその当人へメッセージカードを送る、という一連の流れで構成されたもの。「記憶を食べること」が主題です。

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 宮城県丸森町の出身で、祖父が福島第一原発事故後にそれまで長年続けていた猟師を辞めたことにショックを受けた井上亜美さん。今回、丸森町での狩猟に同行し、実際にそこで得たイノシシの肉を持参、そのセシウム濃度について説明しました。そして放射線量が高い地域で暮らす人の生活を、線量の低い地域で暮らす人が演じることで生まれる違和感を浮かび上がらせたい、と語り、4つのシーンからなる映像作品「イノブタ・イーハトーヴ」について発表を行いました。

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 三番手は中村大地さん。ワークショップで得た3つのキーワード、「補助線」「記憶」「死んだ人の声を聞く」から着想を得た「声と言葉で記憶に/をとどめる(レシピ)」は、演劇の上演を含んだ5つの段階から成る方法論です。「言葉は文字よりも声で受け取ったほうが豊かではないか」と提起し、この方法論を繰り返すことで最終的にはアーカイブ、または記録集が残るといいます。

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 陸前高田市広田町でフィールドワークを行い、そこで問いを立てたのは野口竜平さん。「Yosomono collective」と銘打った、時代と社会に応答しあらたな芸術を実践する漂泊活動集団を組織し、「地域社会」「芸術」「おまつり」が重なりあうポイントに向かいたいと語ります。そこには地方芸術祭、地域アートの増加と同時代芸術の乖離といった問題意識がありました。さらに、2017年3月に広田町と山田町船越で行う予定の、滞在制作・参加型プロジェクト・個展が一体となった「発進!みちのく・半島プロジェクト」についての説明が行われました。

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 5番目に発表を行った西岡航さんは、「畦道を渡る」というタイトルの、自分が撮影者となって岩手県遠野市の畦道を26地点撮影したものと、「自分自身がその風景のなかに入る」または「他者の異なる風景が入ってくる」もの、2冊でひとつとなる写真集を編むことを企画しました。それは、自身がリアリティを感じる二重写しの世界を、畦道という場所に感じ取ったことがきっかけでした。風景を固定的なものではなく、いかに生成変化させていくかが問いとしてあった、と語ります。

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 初日最後の発表を行ったのは、佐竹真紀子さん。震災前に運行していた路線バスの場所に偽バス停を立て、その区間を実際にバスが走る「偽路線バスきょうは終点ゆき」というプロジェクトを考えました。まずは仙台市若林区荒浜地区で実行したいと語ります。荒浜地区は道路の嵩上げ工事が始まり、現在車が通っている道がいつ使えなくなるかわかりません。そのなかを月に一回定期的に運行することを検討しています。

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 5人の講師からはそれぞれ熱のこもった講評が聞かれ、またそれに応答する発表者たちの真剣な姿が印象的な最終プレゼンテーション初日となりました。

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